保険の虫眼鏡(第58回)
「デジタライゼーション戦略」のあり方

 前回、「デジタイゼーション(Digitization)」と「デジタライゼーション(Digitalization)」の相違について、日経産業新聞2017年11月28日の記事を引用して紹介した。もう一度、要旨を記すと以下の通りだ。
 「デジタイゼーション(Digitization)」は、IT化とほぼ同義で使われることも多く、膨大な紙の資料の電子化や、電子メールやアプリなどの社内システム導入を指す。
 「デジタライゼーション(Digitalization)」は、デジタルの力でまったく新しいビジネスモデルをつくり、顧客体験も変えることを指す。既存業界を破壊するほどのインパクトを与えるため、今、デジタル化と叫ばれているのはこちらの意味である。企業そのものの姿が変わるため、業務効率向上の延長線上にこの世界はない。ドイツの「インダストリー4.0」がもくろんでいるのもデジタライゼーションだ。

 似たような言葉であるが、二つの言葉が示すところには大きな相違があることが分かるだろう。「ラ」が入るかどうかで大きく意味が異なるのである。そして、「デジタライゼーション(Digitalization)」によって引き起こされるのが「デジタル・トランスフォーメーション」である。この言葉は「DX」と略されるが、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念である。
 そして、これによって生じるのが、「デジタル・ディスラプション」である。デジタル・ディスラプションとは、新しいデジタル・テクノロジーやビジネスモデルによって、既存製品・サービスの価値が変化する現象を指す。既存の市場をディスラプション(破壊)するようなビジネスモデルが登場するというわけである。

 キーとなる用語を整理したうえで、SOMPOホールディングスの中期経営計画の文言を見てみよう。
 「来たるべき 「Digital Disruption(デジタルによる破壊)」 の時代に対して、自らが積極的にデジタル・トランスフォーメーション(DX)を仕掛け、デジタル対応力をコアコンピタンスとした『真のサービス産業』のグループとなることを目指します。」
 決して揶揄するつもりはないが、何を言っているか分かりにくい文章である。しかし、これまで記したように用語を丁寧に整理すると、デジタル革命の下で、同社が目指す革新的な姿が見えてくるのである。

 最後にもう一つ、三井住友銀行(SMBC)の戦略を引用してみよう。以下に示すように攻めと守りの両面でデジタライゼーション戦略が構成されている。これをみると、デジタル・トランスフォーメーションと同時にデジタイゼーションが非常に重要な位置付けになっていることが理解できる。デジタル・トランスフォーメンションというこれまでの動きとは位相を異にする大変革の時においても、デジタイゼーションをしっかりと戦略の中に位置付けること、これこそがデジタル革命の下で、企業が進むべき地に足の着いた戦略と感じられる
のである。

日本損害保険代理業協会アドバイザー
アイエスネットワーク シニアフェロー
栗山 泰史