Find Your Compass(第1回)
利休七則から学ぶ顧客本位の心得

 皆さん、こんにちは。Hands-Onコンサルティングの野元です。現在、保険代理店の皆さまの「よろず相談窓口」を目指して、様々な経営支援活動を行っています。

 ご縁をいただき、今回から、アイエスネットワークのブログ発信者の一人に加えていただきました。代理店の皆さんが、お客さまに信頼され、選ばれながら、持続的に成長していくために参考となる情報を提供していきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
 最初の発信となる今回は、~「利休七則」から学ぶ顧客本位の心得~をテーマにお伝えしたいと思います。

 「茶は服のよきように点(た)て、炭は湯の沸くように置き、花は野にあるように、さて、夏は涼しく冬は暖かに、刻限は早めに、降らずとも傘の用意、相客に心せよ!」

 これは千利休の言葉で「利休七則」と言われています。茶道をたしなむ方にとっては“おもてなしの真髄”として浸透している茶湯の心得だそうです。茶道が単なる芸能や遊び事ではなく、高い道徳性と倫理性を持った一つの文化体系であることを示すものでもあるそうです。
 この言葉をただ表面的に理解するだけでは“真髄”に至ることはなく、その言葉の奥にある本質を知ることが重要ですが、その本質には今保険代理店に求められている「顧客本位」の精神に通じるものがあると感じましたので、この場を借りて一つひとつ確認したいと思います。

一、茶は服のよきように点(た)て
「服」とは、飲むことを意味します。頓服とか服用の「服」ですね。 ここで言う「服のよきよう」とは、飲んだ人にとって「調度良い加減」という意味となります。つまり、 自分の点(た)て易いように点てること=自分本位を諫め
ているのです。
 但し、これは単にお客さまの好みに合わせろということではありません。その時・その場所でのお客さまの気持ちを察し、「よく考えて点てるように」ということです。POINTは 「事を行うには、相手の気持ち・状況を考えること」ということになります。
 相手の置かれている状況を感じ取り、自分が相手だったらどう感じるかを考えろ、ということですね。相手本位の発想は顧客本位の本質です。

二、炭は湯の沸くように置き
「炭」は木炭のことですが、これは単に「湯が早く沸騰するような炭の置き方」を云々しているのではありません。 ここで言う「置き」とは、「湯の沸くよう」にするための行為全体の象徴的表現と理解されています。つまり、点茶における準備の重要性を説いているのです。
 お客さまの前で茶を点(た)てる場合、火力が一定でないと水の量や釜蓋の開閉で温度の加減ができません。そこで一番大切となるのが、最初の火の調節(最良の炭の置き方)ということになるわけです。全ては「湯の沸くよう」に火力が維持されて初めて火の加減が成立することになります。
 POINTは、「準備・段取りは、要となるツボを押さえることが大事」 ということになります。

三、花は野にあるように
ここでは「あるように」の意味に注意せよ、と言われています。「あるがままに」ではないということです。つまり、その花が咲いていた状態を感じさせる姿に生けることを促しているのであって、咲いていた状態を再現することを望んでいるわけではありません。  
 たとえ、現場では何輪もの花が咲いていたとしても、花一輪でその状態を表現出来れば「あるように」ということになります。また、余計なものを省く程、受け手の想像にふくらみが生まれます。
 シンプルであることは経営の基本とも言われますので、この言葉は実に奥が深いですね。
 POINTは、「ものの表現は、本質を知り、より簡潔につたえること」 となります。

四、夏は涼しく冬暖かに
茶湯は限られた空間で親しみますので、実質的に快適な「夏は涼しく冬暖か」を求めている部分はあるのでしょうけど、この言葉の本質はより深いところにあると言われています。たとえ肌感覚的にそれが叶わなくても、何かしら工夫をこらし、お客さまが「涼」や「暖」を感じさせるようにすべしとの教えです。
 例えば、水や氷またはそれらを連想させるものは触れなくても「涼」を、火や陽光、またはそれらを連想させるものは、当たらなくても「暖」を音や色から感じさせます。こうしたことは日常的にも色々活かされていますよね。
 POINTは、「もてなしは、相手を想う心で行うこと。五感を使って、工夫して行うこと。」 になります。

五、刻限は早めに
これは、単に「時間の約束がある時は早めに行くように」と時間厳守を説いているのではありません。そんなことはわざわざ言う必要もなく、当然のことだからです。ここで言う「刻限」とは、「時刻」に対する意識・認識を指しています。つまり、それを「早めに」とは、常に自分の中の時計の針を進めておけ、ということです。 
 どんな場合でも、現実の時間よりも自分の中の時間が常に先行していれば、その時差が心の余裕となって、焦りを防止してくれます。 焦りがなく平常心でいることは、ゆとりを持って人に接するためにとても大切なことです。 自分が追い込まれていると、他人に気を遣う余裕は出てきませんからね。
 POINTは、「ゆとりは、自らの心掛け次第で平常心でいることから生まれる」となります。

六、降らずとも傘の用意
これは、備えを怠らない心掛けを説いていることになります。 但しこれは、自分目線でのことではなく、招く側がお客さまに対して行う気遣いを言っているわけですから、他者に対する思いやりを持て、という意味になります。
 ここで言う「傘」は、現在とは異なった状況になった時に初めて必要になる物の象徴とされています。つまり、状況が変化したその時に、他者に「憂い」を持たせないため、自分が不測の事態を想定して準備しておくことが大切であることを説いているのです。
 POINTは、「備えとは、万人の憂いを想定すること」になります。

七、相客に心せよ
これは読んで字のごとく、同席したお客さまに対して気を配りなさいということです。同じ場所に居合わせたら、お互いに気遣い、思いやる心を持つように、と説いているのです。 これこそが、茶の湯の真髄と言える言葉だと言われていますが、こうした気持ちを持った人たちが集まるといい組織や社会ができるだろうなと思いますね。
 そもそも「茶」とは、どんなに良質の素材を用いて最善の製法で作り、それを丁寧に点(た)てたとしても、「心」の裏打ち無しでは、単なる嗜好の産物で終わってしまいます。互いに気遣い・思いやる 「心」を持つがゆえに、「茶の湯」は単なる趣味の域を超えた世界を有しているといわれる所以です。「見馴れた人にも新鮮な気持ちで接し、親しい関係であってもなおざりな態度をとらずに、その縁を大事にする」ということを説いています。「一期一会」の精神にも通じるものがありますね。初めて会った人に気を遣うことは当たり前だと思いますが、むしろそうではない人、親しい関係の人にも同じように気を配るよう求めているということです。
 POINTは、「何事に接するにも、無垢な心で。素直な態度で気遣い、思いやること」となります。

 いかがでしょうか?私は、利休の教えには顧客本位のみならず、私たちが住みよい社会、生きやすい社会を創るための深い気づきが溢れているように感じました。
 保険は、他者への思いやりを具現化できる素晴らしい仕組みですが、先人の思想の奥の深さに敬服するともに、保険業界の関係者が、志を同じくして、思いやり溢れる社会創りに貢献できればと思います。

Hands-Onコンサルティング
野元敏昭